青空はいつまでも


 「おとーちゃん、お兄ちゃんはどこに行くの?」
 幼子は、横で敬礼しながら涙を流す父に尋ねる。
 「正和は、日本男子として……戦争に行くんだよ」
 父の言葉は、とぎれとぎれだったので幼女が意味を理解するには難しかった。
しかし、『戦争』という言葉だけは、その後育っていく幼女の記憶に、いつまでも深く
刻み込まれていく。
 幼子は首をかしげながらも、兄の正和の後姿を見つめ続けた。
 兄の背中は寂しげでもあり、どこか誇らしげでもあった。




歴史は繰り返す
人は過去の過ちを忘れ、過ちもまた繰り返す。過ちもまた歴史である
無知なる人々、知恵のある人々も、強大な力の前にひれ伏し、過ちに荷担する
過ちを繰り返すのは、いつの時代でも一部の権力者達
人は強大な力を得たとき、更なる力を求めて、破壊や殺戮、奪取を繰り返す
こうした奪い合いは時として、いや、常に人々の『あるもの』を潰す
それは人々の『宝』。恋人しかり、子供しかり、財産もまたしかりである




 大体、21世紀半ばまでは、世界は一応安定していた。
 金の動き等様々なトラブルこそあったが、『人と人とが殺しあうこと』が一般的に非現実的な
言葉だったことがなによりの証だろう。
 しかし、21世紀後半になると、世界は変わった。政策に行き詰まった国々が、各地で戦争を
起こし始めた。
 これらの国の裏には、政策を行き詰まらせた大国の存在があった。
 大国はこれを好機にと、『平和のための武力鎮圧』という大義名分によって、諸国を攻撃し始めた。
 だが、その大国内でも、宗教間の争いが勃発し、戦争が起こった。
 そして、宗教間の対立は芋づる式に世界中の国々を戦争へと導いてしまった。
 こうして、2085年には、『人と人とが殺しあうこと』は、現実的な言葉へと地位を変えて
いくのだった。


 夏、第2次世界大戦の終わった夏。でも、この時代、戦争は新しく、起こってしまった
悲しき戦争を起こすことに、何の意味があるのか



 「行って来まーす」
 ガチャリと扉を開けて出て来たのは、少女だった。手には黒い学生かばんを持ち、白いシャツの
上に、紺色の制服を着ている。スカートもまた紺色だ。
 21世紀後半の現在だが、学校の制服は21世紀初めのころと全く変わってはいなかった。
 少女は、髪を茶色のゴムで束ね、戦争中だが20世紀の頃の子供達とは違い、不潔な感じは見受け
られない。
 歳相応の、少女と女性の中間あたり、どちらかといえばやや幼気味ではある顔つきで、見るからに
活発そうな少女だ。
 髪は地毛らしく、つやのある明るい茶色をしている。
 こんな少女が『殺人に手を染めている』ことなんて、21世紀初めの平和な時に住む人々は思いも
しないだろう。
 しかし、『この時代』に住む少女は、たしかに殺人を犯した。それも7歳のころにである。
 そしてその時、少女はある『力』に目覚めていた。
 そして、その後も殺人は続いた。無論、全て自分の命を守るため、快楽や恨みといったたぐいで人
を殺めたことは一度たりともない。


 少女が学校へ向かって歩き出して5分、道の端の電柱の影から、2人の男が現れた。手には、黒く
輝きを放つ拳銃が握られている。
 「へへ、お嬢ちゃん。命がおしけりゃ、金目のものを置いてここにすわんな」
 「俺達がたっぷりとかわいがってやるからよぉ」
 もう一人の男がよだれをすする。この男の手には、ボウガンが矢を装填済みで出番を待っていた。
 (またか……)
 少女がためいきをつく。今月でこういう男達に出会うのはもう10回目だ。
 『戦争によって、力の強いもの、力を持つものこそ正義であり、ルールとなった』
 どこかの国の男がそう言ったのを思い出した。あれは確か、どっかの国の大統領だったはずだ。
 戦争のために民衆達のモラルが無くなったのは事実だが、1月に10回は多すぎる、少女はそう思
って再度ためいきをついた。
 「何やってんだよ。言うこと聞かなきゃ殺しちゃうぞ♪」
 狂った甘い声で、鉄砲を持った男が叫ぶ。
 「……うるさい」
少女の意外な一言に、男二人はしばし互いの顔を見合わせた。
 「……手前、誰にものいってんだ?」
 「目の前にいる馬鹿達に」
 少女はしれっと、慣れた口調で続ける。
 「力だけで世の中どうにかなるもんじゃない、ってこと。頭の悪い人間はこれだから嫌になるね」
 男達の顔が、徐々に怒りで真っ赤になっていく。
 「言わしておけばこのクソガキ!!」
 男がボウガンの矢先を少女の胸辺りの位置に置く。
 「なんとでもいいなよ。低脳君」
 少女はにっこりと意地の悪い笑みを浮かべた。この顔で、男は切れた。
 「死ね!!」
 ボウガンの矢が、少女の胸めがけて発射された。
 「……」
少女は目を閉じて、何かに念じる。それが何であるか少女は知らないが、とにかく念じる。
と、少女の胸の前まで来た矢は、突如その空気に吸い込まれるようにして消えた。
 「ガフ!!」
 男が矢が消えたことを知らないまま、男の心臓に強い衝撃が走った。
 拳銃を持った男が、相棒に目をやると、驚きの映像が入ってきた。男の心臓を、矢が貫いているの
だ。
 「ゲ……ガ?」
 男の胸から血があふれだし、男はその場に倒れた。出血が止まらず、男を囲むように血溜まりがで
きていく。
 「わ、わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 男は狂乱の叫びをあげ、引き金に手をやる。
 「無駄だよ」
 少女が再度、念じる。すると今度は、男二人が空気に溶け込むようにして消えた。
何一つ残さず、空気は男達を飲み込んだ。
 「……ふぅ」
 少女が軽く息をつくと、後ろから拍手が聞こえた。
 「……守か。遅いよ来るの」
 「ごめん、今日は寝坊して」
 守と呼ばれた青年は、軽く頭を下げた。学ランに、黒い学生鞄。全体的に痩せ気味で、男にもかか
わらずなで肩だ。
 顔つきも、どこが優しげであまり怖いといった空気が無い。髪は普通の黒髪だ。
 「でも、美香なら一人でも十分じゃないか?」
 美香、それがこの少女の名前だ。
 「でもさ、あれは結構疲れるんだよ?守の技なら、すぐに終わるし」
 「まあね。でも、証拠隠滅なら美香の方が上だし」
 「正当防衛して、何で証拠隠滅が必要なのよ」
 守が地面を指差した。
 「証拠隠滅は不要かもしれないけど、地面コンクリートだから死体が残るんだよ」
 たしかにそこらに死体がごろごろされたのでは敵わない。しかも自分の通学路となれば尚更だ。
 「それも一理ある、て」
 美香が自分の腕時計を守に見せる。
 「もう、8:30なんだけど」
 遥か遠くの方で、学校のチャイムがなる音が響いていた。
 約1分の沈黙。
 数秒後、二人は全力疾走で学校向かってダッシュしていた。結局、二人は遅刻した。



 「いい気持ちだ〜」
 美香が、澄んだ青空を見つめながら言った。
 ここは学校の屋上、現在10:30。本来なら授業中だが、美香は『どうせ廊下で立たされるだけ
だし』というわけで、屋上でぼんやりとしていた。
 こうやって空を見ていれば、嫌なことなんか忘れてしまう、美香はそう言う。
 「こーら」
 後ろから女子生徒の声が聞こえ、美香が振り向く。
 「なんだ、奈々枝か。先生かと思った」
 「なんだじゃないわよ。また授業サボって」
 奈々枝は、美香の幼馴染で、スタイル、性格、顔つきがとても良い。男子生徒たちからも何度も
告白された。
 しかし奈々枝本人はそんなことを考えてもいないので、全く意味が無い。
 「いいじゃん、どうせ立たされるだけだし」
 奈々枝はやれやれといった感じでため息をついて、美香の横に来て座る。
屋上に吹く風が二人の肌を優しく撫でる。なんとも心地いい風だ。
 「いい風だね」
 「うん。屋上の風は最高だよ」
 美香が腕を思いっきり伸ばして、その場に寝る。
 「何があったの?」
 「え……?」
 美香の突然の問いに、奈々枝が戸惑う。
 「学校一の秀才、日本一の難関高校の大成高校合格確実といわれる奈々枝が授業をさぼるなんて
普通は無いよ」
 「……美香には、分かっちゃうか」
 美香が体を起こす。
 「当たり前だよ。何年の付き合いだと思ってんの」
 仕草、表情、そんな些細なことでも相手の心境が分かる関係に二人はなっていた。正に年月が
なせる技といえるだろう。
 「うん、あのね……」
奈々枝は、顔を俯かせながら話し始めた。
 「お父さん、死んじゃったんだ」
 「え……」
 美香の脳裏に、痩せ気味だが、笑顔の素敵な奈々枝の父の姿が思い出された。最後に会ったのは
確か小学校低学年のころだ。
 小説をこよなく愛し、自分が奈々枝の家に来る度に、小説や神話を力説してくれた。
戦争なんて似合わない、そんな人だったが、自分達が4年生になる時に戦争へ狩り出された。
 「昨日、家に戦死通知が来たの。お父さん、基地にいた時に爆撃を受けて、鉄板の下敷きになって」
 そこで奈々枝の言葉は詰まり、代わりにすすり泣く声だけが美香の耳に入った。
 「お父さんね……、遺言に『書き途中の小説を頼む』て、そう言ったらしいの」
 「奈々枝のおじさんらしいね……」
 「何で?何でお父さんが死ぬの!?」
 奈々枝は声を荒立てて叫んだ。その目から涙が流れ、頬を伝って屋上のコンクリート床に染み込む。
 美香は何も言えず、黙りこむ。
 「お父さんは何も悪い事してないし、ただ小説を書いていただけ。なのに、なんで戦争に連れて行かれて
殺されるの!?」
 奈々枝の涙は絶えることなく、コンクリートに染み込む。
 「奈々枝、私馬鹿だから、こんなことしか言えないけど……泣くのをやめようよ」
 美香がゆっくりと、絞り出すように言った。
 「美香は、お父さんが死んでないからそんなことがいえるんだよ!!」
 幼馴染の一言が美香の心に突き刺さったが、美香はそれをこらえて続ける。
 「奈々枝のおじさんが昔言ったこと、覚えてる?」
 奈々枝の涙が少し、止まる。
 「おじさん、言ってたよ。たしか、『小説は、書き手が小説に注ぐ『愛』と『心』によって、良く
も悪くもなる』て」




 それは、二人が小学1年生の頃、奈々枝の父は、唸りながら書斎から出てきた。
 「どうしたの?お父さん」
 「うん。戦争の小説を書いていたんだがな……どうもうまくいかんのだ」
 父は頭を掻きながら、奈々枝の横のソファーに座った。
 「戦争なんて、嫌いだよ」
 奈々枝の横にいる美香が言った。美香の兄は美香の幼い頃に戦争へ少年兵として狩り出され、
一年後に特攻によって戦死した。
 「確かに。戦争は良くないものだ。でも、それだけ思ってては小説はただ戦争を批判するような
文章しか出ない」
 「戦争なんて良くないものなんだから、悪く書くのが普通なんじゃないの?」
すると父は、チッチッチと指を横に振った。
 「甘いな。小説てのは、書き方次第で悲惨な事柄を喜劇や、感動のラブロマンスにも変えられるん
だ」
 父は目を輝かせて続けた。奈々枝と美香は興味津々といった顔で父の顔をみつめた。
 「戦争で荒んでいく人々の心に響かせるような小説を僕は作りたい。でも、そのためには『戦争』
を、少しでも良いところから見つめなきゃいけないと思う」
 「戦争に良いところなんて無いよ」
 美香が口を尖らせて言った。
 「そんなことはないよ。戦争があるときと無い時で、変わった事がいろいろある。例えば、国内
だけではるけど、人々が協力し合うようになった」
 「昔はそんなことなかったの?」
 奈々枝が不思議そうに訪ねた。
 「うん。20世紀末のころなんだけど、その頃は国内は結構荒れてたらしいんだ。毎日のように
人が人を殺して、売春行為が後を絶たなかったそうだ」
 幼い奈々枝と美香に『売春』という言葉の意味はわからなかったが、それが悪いことだというこ
とくらいは父の話し振りを見て感じていた
 「人々の心が荒れていたんだね。きっと。経済状況とかが良くったって、人々の心が荒れていた。
だから事件が後を絶たなかった。その時と比べれば、今はある意味平和だよ」
 「戦争してるのに、平和なの?」
 「精神的な面では、平和なんじゃないかな。少なくとも以前よりは」
 父が、ちゃぶ台の上にある茶をすする。
 「でも、やっぱりこの時代も荒れてる。どんなに奇麗事を並べたって、大切な人が死んでいくよ
うな時代は間違ってるんだと僕は思うけどね」
 父は、『大切な人』という辺りで、空虚な視線を天井に向けていた。
 「現実では、大切な人が死んでいく世の中。だから、小説の中だけでもそんな暗い時代を何処か
へ飛ばしてあげたい。誰かが読んで、明日には希望が待ってるんだと思って欲しい。そんな文章を
書くためには、やっぱり書き手だって、明日に希望を持たなきゃね」
 父は、美香に笑いかけた。美香はそれを不思議そうな目でみつめた。
 「小説を変えるのは、書き手の心と愛だよ。これは、人にも通用しそうなことだけどね」
 美香と奈々枝が、不意にくすくすと笑う。
 「何かおかしな事、言ったか?」
 「うん。愛ってなんかおかしいよ」
 父が立ち上がって、握りこぶしを固める。
 「何を言うぅぅ!!!!小説に愛を込めて何が悪いぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
 父の叫びは、家中に響いた。




 「……言ってたね」
 「言ってたでしょ。それで、お父さんは『小説を頼む』って、奈々枝に言ったんでしょう?」
 奈々枝がこくりと頷く。
 「だったら、奈々枝はその小説を書き上げなよ。でも、あのおじさんが悲しい小説を書くと思う?」
 「思わない。お父さんは、人に希望を与えるような小説を書いてた」
 「じゃあ、その書く本人が泣いてちゃ駄目だよ。悲しい気持ちで書いた小説で、人に希望を与え
ることなんかできないよ」
 美香は、奈々枝を強いまなざしで見つめる。やがて奈々枝は、目に浮かぶ涙を拭う。
 「……そうだね。悲しい小説なんか書いたら、お父さん泣いちゃうかもね」
 奈々枝が軽く微笑む。
 「そうだよ!人々に希望を与えるような小説を書くのが、おじさんへの最高の弔いになるはずだよ」
 「そうだね!!美香、わたしやるよ!!」
 奈々枝が小さなガッツポーズを取る。美香もまた、それにガッツポーズで返す。そこへ、学校の
チャイムが鳴る。
 「あ、次の授業が始まる前に、私戻るね。美香も、ちゃんと授業でなよ?」
 「うん。そのうち出るよ」
 そう言って、奈々枝は階段を降りていった。その表情は、来た時とは打って変わって、輝いていた。



友人のお父さんが死んだ日。友人と共に涙を流したあの日の空
私は2度と忘れないだろう。父の子を乗り越えた、あの友人の笑顔と、この青い空を



 昼休み、美香は昼食をとると、図書室で寝ていた。
 校長が本の管理にうるさく、無理言ってここにクーラーを設置していた。そのため、夏場の図書室は涼しくて快適だ。
 図書室内の人の姿はまばらだった。もっとも、いる生徒は夏が終わった後の一大イベントに備えて、勉強中の男子生徒だ。
 「佐藤、佐藤」
 誰かが美香を呼ぶ声がした。美香がゆっくりと顔を上げると、そこにはいかつい顔をした男子生徒が
いた。その風貌から見て、『番長』という名がふさわしいと思えるくらい。
制服のボタンをかけず、顔には喧嘩でついた切り傷、拳は美香の顔くらいある。
 「……工藤君か。なんか用?」
 「静柾が泣いて教室を出たんだ。それから次の授業が始まるときには、明るい顔で戻ってきたんだ
がお前、なんか知ってるか?」
 「あぁ、奈々枝のこと?」
静柾とは、奈々枝の名字のことだ。
 「お父さんが死んだんだってさ……」
 「そうか。じゃあ、お前が励まして、明るい顔をしていたんだな?」
 「そうだけど?」
工藤はそこまで聞くと、佐藤の胸倉を掴んだ!!
 「お前という奴はぁぁ!!なんでそんないいとことっちゃうんだよぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!」
工藤の目から怒涛の滝のように涙が流れる。
 「わわ!!ちょっとやめてよ!」
 この様を機から見れば、『この2人』の痴情の縺れと思うのも無理は無いだろう。しかし、それは
断じて違う。話の方を聞いてれば分かるだろうが、工藤は奈々枝に惚れているのだ。俗に言う片思い
となる。
 「この悪魔!!鬼畜!!」
 「人聞きの悪いこと言うな!!」
 ジリリリリリン!!!!
 けたけましく、学校中に警報音が鳴り響く。
 『警報、警報。町内に百名程の敵国兵士が侵入した模様!ただちに避難地に非難せよ!!
繰り返す……』
 図書室内の男子生徒達が立ち上がり、すぐさま避難場所である体育館へと逃げていった。
 「あんたもとっとといきなよ」
 美香が、静かに言った。
 工藤は頷くと、すぐに体育館を目指した。と、階段を降りる途中で、あることに気が付く。
 佐藤は、どうするんだ?何故、避難しないんだ



 「やれやれ、3人出張中だってのに」
 美香がため息をつく。3人、とは美香の所属するグループのメンバーのことだ。
 「100単位か、かなり疲れそうだ……」
 美香、守のような、不思議な能力を生まれ持つ子供達。これらを集めて、各地で防衛班として
国が設置している。これらグループを総称して『国内最高防衛機関』と呼ばれた。
 位置的に言えば、普通の軍隊と同等の地位を持っている。しかし、極秘裏なグループなので、
関係者以外は学校長ですらこのことを知らない。
 ちなみに、美香は空間を操る能力を持ち、守は電撃を操る能力を持つ。こういう事態では
美香の出番である。守の能力では、殺してしまうからだ。
 
  美香の持つ空間の能力、とは現実と『あの世』とされる世界の間にある空間を利用できる能力の
事である。この『空間』からは現実のどの場所にも行くことが可能である。つまり、現実のどこから
でもあの世に行けるよう、広い空間が存在しているのである。美香は、この空間を現実からこじ開け
て、物や人を自分の想像した地球上のどこかの地域に送る能力を持っている。

 美香が、強く時空間に念じる。兵の姿を想像し、兵の位置を時空間から確認し、その辺りの時空間
を歪曲させ、穴をあける。
 兵達は何がなんだか分からない内に、時空間へと消えていった。
 「ふぅぅ」
 美香が、力の使いすぎのために倒れそうになるのを、だれかが支えた。
 「守か、ありがと」
 「美香、何でお前は、奴らを帰したんだ?」
美香は空間の力を利用して、兵達を祖国に帰したのだ。
 「彼らにだって、家族はいるし、恋人だっているんだよ。そんな人たちを、むげに殺しちゃいけ
ない」
 「でも、それを使いすぎたらお前の体に影響がくるかもしれないんだぞ?」
 元々人には無かった能力である以上、人はこの能力を行使するための力も持ち合わせてはいない。
 美香達のような能力者は一応例外に、それらを行使する能力を持つが、大きな力を使いすぎると、
体に影響が出る。
 例として、10年前に同じように能力者がいた。戦争に連れて行かれて、その能力を毎日のように
行使させられた。結果、彼は18歳にして、老衰によって死亡した。
 「大丈夫だって。自分の体のことくらいは分かってるつもりだよ」
 「でも、今倒れそうになっただろ?」
 「ちょっとね、でも寝ればすぐに元通りだよ」
 「でもなぁ」
 「うるさいよ守!!」
 美香が怒鳴りつけた。
 「いちいち人の体のこと心配してさぁ、心配される筋合いなんか無いっての!!」
 「そ、そんな言い方は無いだろ!?」
 「あんたの心配してることは、能力者がいなくなることでしょ!?それをさも『私を心配してる』
ように言わないで!!」
 美香はそこまで言うと、図書室を出て行った。一人残された守は、ぽつりと言った。
 「俺の心配してるのは、能力なんかじゃなく、美香の事だ……」
 その声は、けして美香には聞こえなかった。

 美香もまた、言った言葉を後悔しながら体育館を目指していた。
 守が、けして悪意で言ったわけではない。善意でああ言ってくれたのだ。
 そして、自分を助けるために図書室に来たのもまた事実なのだろう。
 『自分の体のことくらいは分かっている』
 確かに分かっている。自分の体が、まずいことももう分かっている。
 10年前の能力者程ではないが、寿命にしてもう30年は縮まっているのではないかと思う。
 美香は、守に謝ろうと図書室に引き返そうとした。しかし、『何で私が謝らなければいけない?』
という美香の強情な部分が、それにブレーキをかけた。

 体育館には、避難してきた町の住民含む大勢の人がいた。美香は、奈々枝を探して歩く。すると、
体育館の中央部で人ごみにまぎれながら、人を探す素振りを見せる奈々枝を見つけた。
 (私を探してるのかな……)
 しかし、どこか奈々枝の様子がおかしい。額に汗を浮かべながら、奈々枝は懸命に何かを探して
いるようだ。美香が人を掻き分けて、奈々枝に近づく。
 「奈々枝!」
 美香が奈々枝を呼ぶ。奈々枝は声のした方を振り向いて、やがて安堵の息をついた。
 「美香!良かった……どこにもいないから、心配したんだよ」
 「え、じゃあ私を必死に探してたの?」
 「勿論よ」
 不意に、美香の目から涙が零れた。
 「どうしたの?何処か怪我でもしたの?」
 「ううん、ちょっとね……」
明日、ちゃんと守に謝ろう、美香はそう思った。



戦いに明け暮れた者の心の汚れを取り払ったのは、何者でもない友人の、汚れ無き笑顔と、思いや
りだった



 次の日は曇り空だった。
 美香は、普段どおり家を出て、守との待ち合わせ場所に来た。まだ、守は来てないようだ。
 「また寝坊かな」
 そう思ったが、今日は違うようだ。守はいつまでたっても来ない。
奇妙に思った美香は、公衆電話から守の家に電話してみる。
トゥルルルルルル、トゥルルルルルル……
 だが、いつまでたっても電話は出ない
 と、いうことは家にいないということらしい
 「……まさか!?」
美香は顔を青くしながら、ある場所へと電話をかける。一般人はまず知らない電話番号、それは防
衛機関の電話番号。
トゥルルル・・・、カチャ
 『はい、こちら国内最高防衛機関。あなたの名前と、パスワードをお伝えください」
 「名前は佐藤美香、パスワードは0965」
そこまで言うと、電話の向こうの声が、機械音から人の声に変わった。
 『はい、もしもし』
 「笹村さんですか?もしかして、今日……」
 「あぁ、偵察に守君を行かせたよ」
 美香の予想は的中した。防衛機関とは名ばかり、この機関に所属するものは、よく戦場などに送
り出されることがある。
 「何でですか!?」
 「何でって……必要だからだよ。それ以外に理由は無い」
 「何処に行かせたんですか!?」
 「真珠湾にね。戦力指数を調べてもらうために」
 真珠湾、『リメンバーパールハーバー』と言われる、日本が昔、急襲を仕掛けたとされる場所
である。実際どうだったのかは分からないが。
 「昔、日本がやったみたいに、あそこを奇襲攻撃しようと思ってね」
 「そこって、すごい危険な所じゃないですか!!」
 「ま、死んだら神として崇められるんだから、いいじゃない」
 美香はそこまで聞いて、電話を切った。狂信的なこの男に何を話しても、無駄だと今更ながら
悟ったからだ。
 なんにしても、守を連れて帰らなきゃ……そう思った美香は、空間に念じる。ドイツ兵の時の
応用で、守を戻そうとした。しかし、
 「通じない?」
 いくら念じても、空間が真珠湾付近で、途切れてしまう。今までいろいろなことをこの能力で
行ったが、こんなことは初めてだった。
 「どうしよう……」
 美香は、成すすべが見つからず、うなだれた。
 こうしているうちにも、もしかしたら守はひどい目に遭っているのかもしれない
 そう思うと、美香は余計焦った。
 「そうだ」
一つ、提案が頭に思い浮かんだ。しかしこれは危険を要する。運が悪ければ、自分も共に殺され
かねない。
 でも……
 いくら考えても、手はコレしか思いつかない。
 もしここで謝らなければ、一生後悔するかもしれない美香は覚悟を決めた。

 再度、空間に念じる。しかし、先ほどとは違い、今度のイメージは『自分』だ。
 やがて、自分のいる空間に歪が生じ、大きな穴をあける。穴は、美香を飲み込んだ。


例え危険なところに行くとしても、伝えなければいけない言葉はそれ以上に重い



 真珠湾近くに点在する島の一つに、美香は時空間から放り出された。
 「ここに、守いるかな……」
 美香が、辺りを見渡す。どうやら、森の中に落ちたようだ。見たことも無い木があちらこちら
に高く伸びている。
ダダダダダダダダ!!!
 突然、機関銃の音が森に響いた。美香は素早く時空間を通じて、状況を探る 
 米国兵が全部で5人、全員機関銃を装備している。辺りに、他の人の気配は無さそうだ。
 ということは、まだ守は無事なんだ
美香が胸をなでおろした。再度、空間から島全体の様子を探ってみる。
 「いた!!」
 守は、基地周辺の森林に隠れていた。ここから、大体5Kmほど離れている。
美香は、すぐさま守の方へ駆け出した。幸い、敵らしい敵は見当たらない。
はずだった。
 しかし、美香の前に、一人の男が立ちはだかった。



 男は、普通の兵隊と変わらない服装をしていた。が、肌の色が日本人に似ている。黒人でも、
白人でもないようだ。
 「見つけた……」
 「え、日本語?」
 もしかしてこの人、ハーフなの?
 「そうだよぉ……ハーフだよ」
美香は驚いた。男が、自分の思ったことを当てるような言葉を言ったからだ。
 「僕は、日本人アメリカ人との間に人工的に作られたのさ」
 「作られ……?」
 「知らないのか。君たちの持つような能力は、日本人特有のものなんだよ」
 男がにやりと口の端を上げた。
 「だから、能力を持つために、僕は日本人との間に作られた。その時の脳波の微妙な作用で、
日本語もしゃべれるようになった」
 なんにせよ、相手は敵だ。話し合いの余地など無いだろう。美香は時空間に強く念じた ……が、
またもや、念が途切れてしまう。何度やっても、時空間が動かない
 「無駄さぁ。僕の力で、そのくらい遮断できる」
 「力、ということは、能力……!!」
 「そぉ。僕は、『察知』と『遮断』の能力がある・・・」
 つまり、この男は『遮断』によって、時空間の念を、美香から遮断したのだ。また、『察知』に
よってそれを事前に察知していた。正に完璧である。
 「でも、どう考えても、貴方の能力じゃあ、攻撃は出来ない」
 「どうかなぁ?」
男はにたにたと、薄気味悪く笑った。男が、念を込める。と、
 ガクン
 美香の右腕が、だらりと垂れ下がった。美香は腕を上げようとするが、全く腕は反応しない。
 「右腕の神経を遮断してあげたよ……気分はどうかな?」
 美香は、何度も腕を上げようとするが、腕はぴくりとも動かない。
 男は、薄気味悪い笑いを浮かべながら、美香に近寄ってきた。
 美香は逃げようとするが、今度は足が動かない。神経を遮断されたようだ。
 「女の子だったら、大歓迎だよ。これで何度でも、能力者の子供が作れる」
 「来ないで!!」
 美香は、何度も時空間に念じるが、やはり全く動かない。
 「かぁわいい顔じゃないかぁ」
 「いやぁぁぁぁぁ!!!」
 男が、美香の顔に手を触れる。そのまま、あいているもう片方の手を、美香の制服にかけた。
 「くぅっふっふっふ」
 男が服を破こうと力を込めた。瞬間
 パァン!!
 風船が割れたような、大きな破裂音が男の頭に鳴り響いた。
 「ぐぁ」
 男が短い悲鳴をあげる。刹那、男の体が吹き飛ばされた。
 男の集中が途切れ、美香の神経が戻る。美香が立ち上がると、そこには
 凄い剣幕で男を睨みつける、守の姿があった。


 「守!」
 「美香、大丈夫か」
 守は男を睨みつけたまま、美香に言った。
 「う、うん」
 「うぅぅ〜あぁぁぁ〜〜」
 吹っ飛ばされた男が、頭を抱えながら立ち上がる。
 「この変態、覚悟しやがれ」
 「ぬかせぇ、若造がぁ。お前なんか神経遮断でぼこぼこに」
 言いかけて、男は口を止めた。もとい、しゃべれない状態になったのだ。守が、男の腹に拳を叩
き込んでいた。
 「がは」
 「消えやがれ!!」
 守が、男に強力な雷を落とす。男は、なすすべもないまま、炭化していた。
 守は、荒く息をついた。
 「守」
 「なんで、来た!!」
 守は、美香に怒鳴りつける。美香は身をすくめた。
 「ここは、敵の土地なんだぞ!なのに何で来た!?」
 「守が……守が心配だったからだよ!」
 美香は精一杯言った。
 「心配?」
 「そうだよ。守の事が心配で……それに」
 美香が、守の顔を見つめた。
 「まだ謝ってないから」
 「……謝る?」
 「昨日のこと……」
 美香は、少しもじもじしながら、話す。
 「守、私のこと心配して言ってくれたのに、私あんな言いかたしちゃって……。守は、能力の
ことなんか心配してるんじゃなくて、私のことを心配してくれたんだよね」
 「……」
 「なのに、あんなこと言って、守の事を傷つけちゃったかもしれない。そう考えたら、私
どうしてもすぐに守に謝りたくて……」
 「……馬鹿だな。お前は」
 美香が首を振る。
 「馬鹿でもいいよ!守のためなら、私どんなことだって、怖くないし、闘える。そう思えるよう
になったんだ」
 守が、頬を赤くする
 「は、恥ずかしいこと言うなよ……」
 「恥ずかしくなんか無いよ、私、守の事が大好きなんだから、恥ずかしいことなんて無いよ!!」
 「ひゅーひゅー、お熱いねぇ」
 冷やかしの声が聞こえ、守が素早く臨戦体制に入る。
 現れたのは、3人、1人は女子、残り二人は男子だ。3人とも、美香たちと同じくらいの年齢だろう。
 「佐々木、田中、田村?なんでお前らがここにいるんだ」
 守も美香も、驚いた。3人は、美香達と同じ能力者で、チームの一員である。
 「いやぁ、ちょぉっと任務を与えられたんでね」
 「任務?」
 「そぉ。反逆者を始末しろっていう任務のね」
 3人がじりじりと距離を狭めてきた。
 「防衛機関の任務を破り、アメリカに甚大な影響を与えた、お前らをな!!」
 「なぁ!!?」




 静かな、日本某所にある事務所。日本国内の極秘任務を任されているこの機関、名を『日本最高防衛機関』と言う。
その事務所の中で、一人の男がコーヒーをすすっていた。機関の長である、笹村という男である。
 「いやぁ、あの2人、やってくれちゃいましたねぇ。これでは、アメリカへの取引がおしゃかになってしまう」
 男の机には、一枚の紙切れが置いてあった。
 『アメリカ極秘情報員笹村様・能力者、(生死問わず)の体を一体100万$にて買い取らせていただきます』
 その紙の下の方には、笹村の字でこうかかれていた
 『以下の能力者をそちらへお譲りします
  体の状態:場合による 
  年齢:14、5歳 数:2(男女各一体) 
  能力:空間(女)・電撃(男)』
 「まぁ、死体でもいいと向こうは言ってるし、輸送費もかからないから、大丈夫でしょうが」
 笹村が、電話をかける。
 『はい、こちら防衛機関極秘部』
 「あぁ、後処理を頼みたいのだが」
 『どういう、後処理を?』
 「佐藤美香、堀田守の通っている学校、及び町を、全壊しておいてくれ。だれひとりとして生かしておくな」
 『何故ですか?』
 「国に忠誠を従わない非国民どもだからだ。政府から許可もちゃんととってある」
 『分かりました』
チン、笹村は電話を受話器に戻した。
 「これで、あとは金が入るのを待つだけだ」
 政府内には、笹村のように他国に協力する者も大勢いる。そして、それらをもみ消すために被害をこうむるのは、
いつだって罪無き人々だ 
              


罪無き人々が、罪人によってかせをはめられ、罪人によってその命を失う



 戦いは、熾烈なものへとなっていた。
 佐々木は重力、田中は脳破壊、田村は筋力増強の能力を持つ。3人のチームワークは完璧だった。
 田村は、筋力増強で守を倒そうとする。しかし発達した筋力をもってしても、守を捕らえることは出来ない。
 そこを、佐々木の重力でカバーする。また、美香の空間能力は、念じる必要があるので、田中の脳破壊で邪魔をする。
 守は電光石火が信条なので、重力によって速度を落とされるのは厳しい。
 そして、筋力増強した田村とまともにやりあって、勝てる見込みはほとんど無い。
長期戦になれば、守達の不利は明白。
 守は素早くけりをつけようと、一瞬で、田中に近づく。田中は虚をつかれ、そのまま守の電撃を浴びた。
 「望!!」
 佐々木が、自分の力を全開まで引き上げ、守に落とす。
守の足が、地にめり込んだ。なおも重力は、守を押しつぶそうと守に力を加える
 「く、くそったれ!!」
 守が気合で、圧力を弾き飛ばす。しかし、力を消費しすぎたか、守はよろめいた。
 「力が尽きたか。気の毒になぁ」
 田村が守にそう言い放つと、守を蹴り上げた。守はそのまま、ちかくの木に背中からぶつかる。守の口から、鮮血が零れ落ちる。
 田村が、守に近づく。
 「いい気分だなぁ。人を思いっきり殴り殺すってのは」
 守が、軽く笑う
 「なにがおかしい、気でも狂ったか」
 「いやな。いつから俺は、人を平気で殺せるようになったのかってな。人が人を殺すなんて、道徳的に間違ってると思うんだがな」
 「そんなもん。はなっから決まってた運命がそうさせたんだ」
 「お前は、その運命に抗う気はないんだな」
 「ないね」
 守が、ふぅとため息一つ。
 「俺は運命を信じない。自分の一生は、自分で作っていくもんだ!!」
 守が手を上に向けた。雷が、一直線に田村に降り注ぐ。
 「ぐぉぉぉぉ!!!」
 守が立ち上がる。
 「そのために、今お前らにここで勝つ。勝って、美香と一緒に帰る」
 「そんな夢みたいなこと、叶う訳が無いわ」
 田中が叫んだ。
 「叶うさ」
 守が、二人を直視する。
 「叶うと思って行動すれば、叶わないことなんて無い!!」
 電光石火、守が佐々木に殴りかかる。
 「やらせるもんですか!!」
 田中が、守の脳に攻撃をする。守が、その場に崩れる。
 追い討ちで、佐々木が圧力を守にかける。
 「……ふぅ」
田中の額に、冷たい汗が浮かぶ。声のした方に、ゆっくりと顔を動かす。
 「守一人じゃない、てことを忘れたのかしら?」
 田中の顔を見据えながら、美香の能力が発動する。
 空間に、大きな穴が開き、田中を穴の中に吸い込む。
 「望!!」
 佐々木が、望に手を伸ばす。望が手を伸ばすが、数センチ足りなかった。
 「徹ぅぅぅぅ……」
 「の、望ぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」
 空間は、人のまぶたが閉じるように閉じた。佐々木の目から、多量の涙が流れた。
 「望を、望を帰してくれ!!!!」
 佐々木が、美香に懇願する。
 「俺の命ならくれてやる、だから、望を助けてくれ!!!望は、望は俺の全てなんだ!!」
 美香は、再度空間に念じる。すると、空間が穴を開けた。
 「望!!」
 田中は、ほおりだされるように時空間から出て来た。
 佐々木は、望を抱きしめた。
 「徹、私、生きてるんだね」
 「あぁ、生きてる、生きてるんだ!!」



 「すまない、堀田。でも」
 「任務だったんだろ?じゃあ仕方が無いだろ。それより、お前ら、これからどうするつもりだ?」
 「あぁ、もう日本には戻れないだろうな。任務失敗しちまったから。ここに残るさ」
 「大丈夫なのか?ここは敵の土地だぞ」
 佐々木は、田中の肩を持って、自分の方に寄せた。
 「俺は、望さえいれば他に何もいらないし、生きていける。心配すんな」
 「そうか……じゃあ、これでさよならだな」
 「生きていたら、また会おうぜ」
 佐々木がにっと微笑んで、守に親指を突きたてて見せた。守も、同じように佐々木に返す。
 「美香ちゃん」
 田中が、美香にそっと耳打ちする。
 「がんばってね」
 美香の頬が少し赤くなった。
 「……うん!」
 「じゃあ、また会おうぜ!!」
 「おう!!」
 美香が、時空間に念じ、穴を開ける。美香と守はそこから帰っていった。2人を見送ると、佐々木が歩き出した。
 「さ、行こうぜ望」
 「うん」
 2人が一歩歩き出す、と地面が爆発した。爆風が、森の森林全てに火をつけた。
 「敵襲か!?」
 基地のアメリカ兵たちがあわてふためくなか、その燃える森を冷ややかな視線で眺める男がいた。
 男は、胸ポケットからトランシーバーを取り出し
 「廃品は始末した」
 それだけ言って、死体を確認するために森の中へ入る。
 2人の死体は、下半身が既になくなっていた。心臓の鼓動も聞こえない辺りから、既に死んでいる。
 と、男はここで妙なことに気がついた。
 2人の顔は、穏やかで、何処か微笑んでいるようにも見えたからだ。


  権力は、一つの愛を潰した。しかし、2人の愛がそれだけで本当に潰れたかと言えば、そうではないかもしれない。
だって、愛は心だから。心は肉体が死んでも消えない




 二人が戻ってくると、そこに町は無かった。あるのは、鉄くずや、壁の破片だった。
 冷蔵庫などが剥き出しで残っていて、少年達がそこから食料を漁っていた。
 「何があったんですか!?」
 守が、近くを歩いていた老人を捕まえて、聞く。
 「昨夜、襲撃があったんだよ。どこの国か知らんけど、強力なミサイルを、町に3発打ち込んだんだぁ」
 「3発?」
 「そうだぁ。体育館と、あとは確か、堀田さんちと、佐藤さんちだったかな……」
 美香はそれを聞いて、愕然とした。直撃を受けたのだ。きっと、お母さん達は逃げる間もなかっただろう
それは、守にしても同じだった。
 そして、襲撃前にたくさんの人たちが避難していたと言う、体育館。まさか、奈々枝や工藤は……
 そう思うと美香はいてもたってもいられなくなり、体育館に走った。
 「おい、待てよ!!」
 守も、その後を追った。


 体育館は、すでに跡形も無く崩れていた。
 周囲で、子供の無く声が聞こえる。恐らく親がかばって、なんとか生きている子供達だろう。
 「奈々枝ー!奈々枝ー!!」
 美香が、友人の名を呼ぶ。しかし、返事は返ってこない。
 「私だよ、美香だよー!!奈々枝ーー!!」
 美香が、ひたすらに奈々枝の名を呼ぶ。と、守が奈々枝を手招きした。
美香が守に近づく。と、そこには、体の大きな男がいた。
 「……工藤くん?」
 男が振り向いた。それは間違いなく工藤だった。そして、その先にいたのは―――変わり果てた友人の姿だった。
 「奈々枝!」
 「落ちてきた瓦礫が、頭に直撃したんだ」
 工藤の目からは、もう枯れ切ってしまったのか、涙が一滴も出ていなかったが、頬に涙の後だけが鮮明に残っていた。
 「こんなもののために、静柾は……静柾は!!」
 工藤の手に握られているのは、原稿用紙の束だった。美香は工藤の手からそれを取ると、一枚目の紙を探した。
 「やっぱり、これは、奈々枝のお父さんの小説……」
 原稿用紙の一枚目に、父のサインがあったのですぐに分かった。
 「奈々枝は、お父さんの小説をずっと守ってたんだ……」
美香は、書きかけの小説を自分の鞄の中にしまった。
 「……この小説は、かならず奈々枝の所に返すから、ちょっと貸しといてね」



 「おー、やーーっとみつけたでー」
 後ろから、奇妙な関西弁を聞き守と美香は振り向いた。そこには、挑発の赤毛の男が立っていた。自分達より年上かもしれない。
 「誰ですか?」
 「わいはなぁ、お前達を始末するために雇われた男や。名前を名乗る必要は無いだろな」
 「始末だと?」
 男は軽い口調で言った。
 「そや。二人とも反逆罪で、死刑ってことになっとんのやで」
 「ふざけるな!!」
 「べっつにふざけてるわけやないで。ほんなら証拠に、ちょっと一発わいの力をみしたろかい」
 男が指をぱちんと鳴らす。すると、工藤の体から煙が立ち始めた。
 「なななな、なんだぁ!?」
 「工藤君!」
 「ど、どうなってるんだ?」
 工藤の体から煙が立ち昇り、工藤の体が痩せ細っていく。肉がどんどん消えていっている。数秒後
そこにあったのは、工藤の骨だけだった。
 美香は、口を抑え、吐き気をこらえている。
 「わいの能力でなぁ、『腐食』いうんや。ほとんど残さないから、エコロジーやろ?」
 「手前!!」
 守が電光石火で飛び掛った。
 「ふん!」
 男が、それにあわせて、けりを放った。蹴りは、守の拳よりも早く守に届いた。
 「ぐ!!」
 守が下がる。
 「おやおや、そんなもんかいな?」
 「こいつ、筋力増加まで持ってるのか……!」
美香が、空間に念じる。空間に、大きな穴を開ける。
 「こないなもん、こうや」
 男が穴にでこぴんすると、穴は急速に閉じていった。美香は驚き、その場に立ち尽くしてしまった。
 「修復、っていうんや。なかなか、芸達者やろ?」
 守が、能力全開で電撃を放った。男は、まともに電撃を浴びた。
 「やった!!」
 しかし、男は平然とその場に立っていた。外傷が全く見当たらない。
 「残念やなぁ。わい、物理攻撃以外はほとんど通用せえへんねん」
 「ち……どうやって勝てばいいんだ?」
 「勝つ方法なんか無いで。おとなしくこの場で殺されるのが得策やとおもうんやけどな」
 「誰が、誰が可能性のあるうちに諦めるかぁ!!」
 「可能性?」
 男の姿が消えた。守が辺りを見渡す。
 「後ろやでぇ」
 守が振り向くと同時に、守の顔に一発、強烈なものが入った。
 「守!!」
 美香が駆け寄る。
 「さぁ、観念して2人仲良く、死にな!!」
 「あんたなんかに、負けない!!希望の種を潰してしまうような人たちに負けない!!」
 (希望の種……)
 守は、今この状況から、たった一つの方法を思いついた。
 (美香だけでも助けるには、この手しかない!)
 「美香、空間を開けてくれ」
 「え、でもあいつには……」
 「いいから、早くしろ!」
守の剣幕に押され、美香は空間への扉を開けた。
 「美香……、いつまでも、お前のことは忘れないぞ!!」
 「え、いきなり何を」
 守は、美香の肩を抱き、唇を重ねた。
 (え……)
突然のことで、美香には何がなんだかわからなかった。
 「じゃあな!!」
守はそう言うと、美香を空間に突き飛ばした。
 「電磁封印!!」
 守は、電気の力と日本古来からの仏の力を合わせた、封印を作り、空間を封印した
 「ちょっと、守!!」
 「美香、そこで隠れてろ。戦争が終わる頃には出られるはずだ!!」
 「そんな!!じゃあ、守はどうなるの!?」
 「大丈夫だ!!必ず、お前を迎えに行く」
 「嘘だ!そう言って、守、死ぬ気なんでしょう!?ここから出して」
 「駄目だ!!それに、俺は死なない。約束を破らない!!」
 「本当!?本当なんだね!?だったら、私、いつまでも待つよ。もしそれで結婚できなかったら、
守のせいだからね?」
 「大丈夫だ」
守は白い歯を見せ、にやりと笑って、指を突き出した。
 「分かった」
やがて、穴は閉じきり、美香の目の前は真っ暗の空間だけになった。
再び穴が開き、美香の目の前に光が現れるのはこれから5年後のことだった。



男女の間で交わされた約束、それは永遠の約束
偽り無き、絶対の約束。

                       
 21世紀末、戦争は終わった。
 1世紀前の戦争のように、重役達は『A級戦犯』とされ、死刑となった。
 その後、急速な経済成長を迎えていくのだった。


 「随分、遅くなっちゃったね」
 美香は、25歳になった。現在は、小説家として働いている。
 目の前の墓石には『静柾家墓』と書いてある。この下に、奈々枝は眠っている。
 その隣の小さな墓石には、『工藤家墓』と書いてある。これは、美香が建てた物である。
 「仕事が忙しくてなかなか来れなかったんだ……でも、」
 美香はバッグから、一冊の本を取り出した。
 『青空だけは』という題名のついたこの本は、紛れも無く奈々枝が父より預かり、奈々枝から美香が借りた小説だった。
 本を、墓石の真中に置く。
 「小説、返すね。お父さんと、工藤君と、天国で読んでね。私が書いたものだから、上手く書けてはいないかもしんないけど」   
 美香が、空を見上げた。
 「でも、本当に、空だけは変わらないね」
 美香の頭に、昔と同じ空が浮かんだ。

 父が死に、泣いていた奈々枝、その時も、空は青かった
 工藤が、奈々枝を助けようと必死の時も、きっとこんな青空だっただろう
 普段授業を受けている時、窓から見える空も青かった。
 美香が、数年ぶりに出て来たときも、やっぱり空は青かった
 戦争が終わっても、戦争中でも、空は青かった
 そうだ。いつだって空は青く、自分達に希望を与えてくれた。
 戦争中でも、自分達に希望を与え、いつも自分達を見守ってくれた
 人の命が終わる瞬間、人の命が始まる瞬間、青空はいつもいたんだ


 アメリカに行った時だって、空は青かった。日本だけじゃない、何処の国でも空は青いんだ
 きっと、守も自分と同じ空を見ているはずだ。
 美香は、大きく息を吸った。
 「早く、私を迎えにこ―――い!」
 言った後、なんだか自分がむしょうにおかしくてわらってしまった。
 同時に、少し涙が浮かんできた。
 墓の近くに咲くひまわりが、ゆるやかな風で揺れていた。



歴史は繰り返す。良いことも、悪いことも、愛も、憎しみも
それでも、絶対に無くしてはいけないものがある
どんなに苦しくても、希望だけは忘れちゃいけない
思い出を捨てちゃいけない
楽しい思い出だけで、明日に向かう事だってできるのだから
青空は、いつもそのことを教えてる
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