川は流れる。誰に押されるでもなく、ただ流れる。僕の住む村にある、この名も無き川 も、ただゆっくりと流れる。 僕は一人、その川を眺めながら草むらに寝転んだ。川の側で流れる風が涼しい……と風 の流れてきた方に顔を向けると、そこには見慣れた彼女の顔があった。 「ゆうき、あんたまだ悩んでるの?」 そんな事をいう彼女を、僕は直視する事はできず、両耳にイヤホンを押し込んだ。 僕は彼女の顔を見ないよう、そのまま目を閉じた。彼女が溜息をついたような、そんな 気もしたが、僕はそのままイヤホンから流される音に意識を集中させていた。 イヤホンから、ラジオのニュース放送が流されていた。 「昨日、川の辺りで遊んでいた幼児が川に転落し、何とか救助されたものの、病院で死亡 しました。 亡くなった幼児は埼玉県坂戸市……」 その悲惨な事故を、僕は目の前の川を使ってイメージしていた。 昨日、その地域では一昨日の豪雨で川が増水していたらしい。となると、その次の日で はまだ増水が収まらず、流れも激しかったのではないだろうか。 そんな川に幼児が落ちてしまえば、普通なら沈んでしまうはず。それを何とか救助される までもたせたということは、恐らく幼児は生きようと必死になっていたのだろう。 一瞬、僕は自分の考えてる事に悪寒を感じ、すぐに考えを止めた。また、ラジオに耳を 傾ける。 「今日、昼ごろ。多数決の取り方を国家単位で定める、多数決法が可決されました」 多数決法。聞くだけで馬鹿にしたくなるような名前の法が可決されたらしい。 元々、今までは多数決で賛成多数であっても、反対側の意見も尊重しようという考え方 だった。しかし、『そんな曖昧な判断を続けててはいけない』と一人の議員が言い出した 事で、この法案が作られた。この法案が通った以上、少数派の意見には全く耳を貸さずに 強行していい、という事になる。 「強い者が勝って、弱いものが負ける。 至って普通の流れ方だよな」 僕はそう思った。しかし、その時ふと、さっき考えていた子どもが、生き様と必死にな って抵抗する様が浮んだ。 「流されるのと、それに抵抗するのと。 どっちが正しいんだろう」 僕は、つい口に出して言ってしまっていた。 「どっちが正しいかは分らないけど、私ならかっこ良く行きたいな」 彼女は、僕ではなく、川を見たままそう答えた。 「流された方が楽かもしれない。 でも、幸せも願いも、どれもこれも楽な道には落ちて ないんじゃないかな、て私は思うよ」 彼女が、僕のほうを振り向いてほほ笑んだ。 「やっぱり、僕もお前と同じ高校を受験するよ」 僕は、そう決心した。 偏差値や、学校の常識に流されないよう、彼女の手を強く握って。