それは業火によって熱されていた。
数滴落とされた物たちは、熱によって瞬時に蒸発しまいそうだった。事実、落とされた液体の3割程が、その上では生き残っていなかった。
今度は別の液体が投下される。悲鳴を上げながら、投下された液体は鉄の上を転げまわった。数秒後に僕が彼らをのぞき見ると、彼らは既に原型を留めていなかった。
あぁ、まさにこれは地獄の釜。落とされて無事に帰ってきたものなど皆無なのだ。『生き残ってみせるさ!』と勇敢に旅立っていった吉田の姿を見たものもいなければ、『やだやだ、死にたくなぁい!』と言って必死に抵抗した車も、やはり帰って来れなかった。彼の同僚である桜が彼の生死を確認するために地獄の釜の周囲を探索したところ、そこには彼の頭と服だけが無残に放置されていたという。
などと他人事のように言ってる僕だが、僕とて例外ではないのだ。今まさに、僕がこの地獄の釜の中に落とされようとしているのだから。
あぁ、死にたくない。もっと恋人といちゃついていたかったし、親のすねかじって大学にだって行きたかった。万引きのスリルだって味わいたかったのに……。
でも時間は待ってくれなかった。原形を留める事が許されない地獄の釜へと、僕は落とされた。
「チャーハン三十秒前でーす」
鍋を振る男が叫んだ。
「そうしたら、先頭の伝票は車えびのチリソースです」
「分かりました!」
鍋を振っている男は皿にチャーハンを盛り付けて、料理を運ぶスタッフに手渡した。
皿の上で、チャーハンは調節された油によってきらきらと輝き、見事な焼き加減によって生まれたその香ばしい香りと共に、お客の下へと運ばれていくのだった。
「あー、また海老の頭落としちゃったよー」
鍋を振るう男は、落とした海老の頭を拾い上げ、鍋の中へと戻して調理を続けた。
今日もこの中華料理屋は繁盛し、多くの命が地獄釜火炎地獄へと落とされていく。
せめてもの供養、残さず食すといたしましょうか。
「あちぃっ!!」
地獄の余波がこの皿まで来ているらしく、私は舌を火傷するのだった。