俺にとって、この何も無い六畳一間が新しい生活の場だ。
何も無いといっても、実際には趣味の楽器やパソコンがあるにはあるのだが、残念ながらどれもこれもまだダンボールの山のどれかに眠っている。
このダンボールをがんがん開けて、お目当ての楽器やパソコンを取り出す、それは冒険物語で勇者といわれる人間が宝箱から宝を見つける事に近いものがある気がする。何分、ダンボールは八箱ほどあり、一つ開けるとそれなりの時間を使ってしまうだろう。数分かけて開けたダンボールの中身が実家のベッドの下に隠された秘蔵のコレクションだった日には気分が沈んでしまう。いや、それはそれで確かに嬉しいものに違いないのだが、冒険物語で金等で装飾された宝箱に薬草が入っているくらいショックだ。逆にそれがお目当てのパソコンや楽器なら、勇者の剣を見つけた時くらいの感動が待っていると思う。ましてそれが一箱目から辺りなら、恐らく俺は今年一年健康に過ごせるだろう。
勇者、そう、俺は勇者になるためにこの部屋で暮らす事にしたのだ。大金持ちで、自分の思い通りに生きる事の出来る、そんな勇ましい男に憧れて、俺はこの暗く汚い六畳一間にやってきたのだ。
しかし、この六畳一間は始まりなのだ。俺の輝ける人生の第一歩、そのための通過点なのだ。
この六畳一間から全てが始まり、俺の人生勝ち組ロードが開けていくのだ。プール付きの豪邸、ご飯は毎日バイキング、三食昼寝おやつ付きの俺の人生。
友人に話したら
「夢見すぎだろ」
と蔑むような目で言われたが、そんな事は気にしない。
「じゃあ、どうやって金稼ぐんだよ、この三流大学出めが」
何処の大学を出たか、なんてのは飾りでしかない。勇者は決まって、貧乏な家から生まれるのだから。少なくとも日本の昔話ではそうなっている。
さて、無駄な独り言を言い過ぎたようだ、そろそろ勇者への一歩を進みますか。
さぁ見ていろ友人め、これが俺の必勝法、勇者への快速特急――
ジーコ、ジーコ
「あぁ、もしもし母さん? 俺だよ俺!」
うっかり間違えて友人宅へかけてしまい、危うくそのまま豚箱行きになる所だった。
勇者に障害はつき物だ!
でもとりあえず警察も怖いので、宝箱回収に乗り出す事にした。
「さぁて、一個目の宝ばこにはなにがはいってるかな〜?」
宝箱を俺は開けた。
そして、勇者の剣(新聞紙製)を持って来なかった事を後悔した。
誰が、宝箱にモンスターが入ってるなんて思うかよ!
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